ビュッフェ・クランポン、ヤマハ公認特約店。上質な楽器を有名奏者の選定品でご提供いたします。 管楽器専門店永江楽器
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天然の木材で作られているクラリネット。楽器の製造は職人による手作業の部分も多く、同じメーカーの同じモデルであっても、1本1本鳴りや音程、バランスが異なり「個体差」と呼ばれています。 事前に複数本の中から吹き比べを行い、吹奏感や、響き、音色など、より品質の優れた楽器を手にしていただけるよう、プロ奏者による選定品をご用意しております。
弊社で取り扱っておりますクランポン クラリネットの選定は、ビュッフェ・クランポンの日本法人である株式会社ビュッフェ・クランポン・ジャパンにて行っております。江東区・東陽町に本社を構え、ビュッフェ・クランポンをはじめベッソン、アントワンヌ・クルトワ、ユリウス・カイルヴェルトなど多くのブランドを有するメーカーです。 今回は、日本を代表するクラリネット奏者、横川晴児先生の選定インタビューの様子をお届けします。
―選定時に重視されているポイントは? 横川先生:たとえば今、ここにあるE13を比べてみましょう。吹き心地は奏者によって異なるけれど、「それぞれのモデルが求めている音色」というものがあります。まずはそこを重視します。 このE13はR13系統の音ですが、こちらの楽器の方がR13系統の特色が良く出ています。倍音が多く、音の輪郭がしっかりしていて、中身がぎゅっとよくまとまっています。 反対にこちらの楽器は、個性があるけれど、悪く言うとごつい。男っぽい力強い音。ただ、オーケストラで吹くのならこっちのほうが音が通りやすいし、音が溶けてしまわない。 このような音色的な特長は、1本1本違います。モデルが変わるとまた別の視点が必要になるし、もちろん奏法も変えていきます。息の入れ方が、RC系統とR13系統とでは違います。リードまでは変えないけれど、E13にはE13の息の入れ方があって、同じ奏法でRCは吹きません。 さらに重要なのは、上管と下管のバランスです。同じ息を吹き込んで均等に鳴ってくれるかどうか。上管と下管の鳴り方が均一でなければなりません。
―選定時のマウスピースは何を使っていらっしゃいますか?普段のセッティングは? 横川先生:マウスピースはバンドレンの5RV-Lyreです。世界中でもっとも広く使用されている、いわば万人向けの5RVと5RV-Lyreを基準としたリードを作る、という目的のもとに、かつて私はRico社(現D’Addario社)とともにThickBlank(シック・ブランク)を開発しました。現在もこのリードを合わせています。 このリードは、気候の変化が激しい日本での使用を想定して、夏の高温高湿や冬の低温乾燥に耐えられるように設計を全部見直して作りました。南フランス産のケーンを使用しているので、材質も良いものです。 リガチャーは、ビュッフェ・クランポン純正のものを使っています。遠くまで音が通って、適度に抵抗があります。いろいろ使ってみましたが、ビュッフェ・クランポンのリガチャーが一番いいと思います。 もうひとつ、楽器の中でいちばん影響が大きいのがバレル。マウスピースやリガチャーももちろん重要ですが、バレルの影響は結構大きいですね。ここから下がどんなに鳴っても、その手前のバレルが良くないとね。
先生が選定した楽器はこちら
―ご自身の楽器について教えてください。 横川先生:今はLegendeとToscaのグリーンラインを使用しています。 ―発売当初から、その仕様でお使いなのですか? 横川先生:横川先生:はい、最初からグリーンラインです。最先端の技術によって開発されたものですから。常に新しいモデルや素材を使いたいという思いもあるし、我々演奏家が使っていかないでどうするんだという責任感もあるし。とはいえ、グラナディラが選択肢にないわけではありません。以前に使っていたグラナディラのFestivalもとても気に入っています。 ―素材で比べると、グリーンラインのほうが経年変化が少ない印象があります。 横川先生: そうですね。Toscaのグリーンラインは10年以上吹いたかな。ただ、12〜3年経ったころからさすがにちょっと鳴りすぎかなという感じになって、そのころLegendeが登場して。グリーンラインだと楽器としての寿命が長いのは確かにありますね。
―先生の音を聴いていて、R13とRCにはそれぞれ違う美しさがあると感じました。 横川先生:私はね、お化粧した美人がRCで、すっぴんの美人がR13と言ってるんですよ。 RCは「どうです?きれいでしょう?」と言いたげな立派に仕上げられている美しさが特徴です。音が柔らかくしっかりとしてまろやかで、ソロの演奏で実力を発揮する。 R13の良さは音の密度の「濃さ」かもしれません。どちらかというと管弦楽に向いていて、楽器としてしっかり整っていて、シンプルな音ひとつだけで訴える力を持っている。音がしっかりフォーカスされていて、遠くで聞いても音の密度が変わらない。そして輪郭がはっきりしている。その輪郭線上に倍音をいっぱい伴っていて、きらびやかなところもあるけれど、全体の音としては、明るくなってしまわず、暗さをもっている。そういう音が出る楽器を私も好んでいて、自分にとって理想の音の原点はR13かもしれません。 一発の音で魅了できるのがR13で、その上位機種であるFestivalはもう完成品と言っていいくらいです。 一方で、Toscaは技術の粋が結集した、ある意味異次元の楽器ともいえます。きわめて大きな表現力を持っているし、色彩の変化も抜群です。 たったひとつの音で聞く者を魅了する、という話になるといつも思い出す出来事があります。昔、ウィーンフィルで、アルフレート・プリンツさんのウェーバーの「魔弾の射手」を聞いたときのことです。最初の音を耳にした瞬間に魅了され、鳥肌が立ちました。 輪郭がしっかりとした密度の濃い音とは、会場のお客さまひとりひとりに直接音が届くような力を持っていると思います。 晩年のブラームスに傑作を書かせたリヒャルト・ミュールフェルトというクラリネット奏者がいますよね。彼はどんな音をしていたのだろうと、昔からずっと想像してきました。きっと、そんな音だったのじゃないかな。
横川先生:たとえば、この中ではどれが一番好きでした? ―E13らしいのは、この3本目でしょうか?柔らかくて雑味がなく音がきれいにまとまっています。 横川先生:その通りですね。これは圧倒的に良い楽器です。E13だろうがFestivalだろうが、そんなことに関係なくこれを選びたくなるくらい。即戦力になります。 (別の楽器を手にして)じゃあ、これはどう思います? ―どちらかと言うと、RCに近い感じでしょうか? 横川先生:そうですね。音色は柔らかいけれど、太くてしっかりしています。でも私はこの楽器を選びません。なぜかというと、吹き込んでいったときにリミットがあるからです。いい音なのですが、キャパが少なく、将来性があまりないのです。 例えて言えば、相撲取りが子供を相手にしているような感じでしょうか。子供にけがをさせないように手加減しますよね。それでは良い相撲は取れません。全力で向かったときに「いいよ、いいよ、もっと来てよ」と応えてくれる楽器でなければ、演奏家は充分に表現することができません。 とはいえ、受け入れてくれるばかりでも困ります。良い音でよく鳴ることはいいことですが、でも、それだけではすぐに飽きてしまいます。抵抗感が少なくよく鳴る楽器だと、我々はどこかで抵抗感を得ようとして、リードを重たくします。すると吹く方はどんどん辛くなってしまうのです。 (別の楽器を手にして)この楽器は鳴ってくるのに少し時間がかかると思います。そのかわり、いい味を持っていると言ったらいいかな。なんともいえない淋しさだったり、不安だったり、そんな音を持った楽器です。自分好みにじっくり育てるならこれがいいと思います。 即戦力をとるか、じっくり育てるか。もちろん最良のものを選びますが、最良にも色々なタイプがありますからね。 これはいい、これはだめ、と選ぶ作業をまずやって、残った良い楽器の中からさらに細かいところを確認して選び直します。すべての音が均等で、音程も音色も良く、完璧に感じられた楽器が、実際に曲を演奏してみると「あれ?」となることもあります。自分の求める表現を可能とする雄弁な楽器を選ぶことは、大変な作業です。
―1台の選定品を選ぶのには、とても丹念な作業と多くの労力を必要とするのですね。 横川先生:横川先生:楽器は育てるもので、ただ鳴ればいいというものではないですからね。簡単じゃないんですよ。簡単そうに選ぶけれど(笑)、ものすごく経験が必要なんです。 今はぱっとしないけれど、5年後や10年後に鳴り始める、そういう楽器もあります。言葉で表現するのはむずかしくて、実際に演奏してみないとわからない部分です。 今日はたくさん楽器があるからいいけれど、5本選んでくださいと言われたのに、2本しか選定できないということもあります。そういうときはそこでやめます。いいのがないからもっと出して(候補並べて)とお願いすることもあります。そこはとても誠実にやっています。選定品というのはそれだけ大きな価値があるのです。 本当は、楽器を使用する方がどんな人なのか、どのマウスピースやリードを使っているのかなど、情報が欲しいですね。そうでないと、私が良いと思っても、その楽器が必ずしも好まれるとは限らない。むずかしいところです。 オーケストラで演奏するのか、吹奏楽をやっているのか、普段演奏するのが大きなホールなのか、小さな会場なのか。中学生なのか、大人なのか。どれも重要な情報です。 いちばんいいのは御本人に来ていただくことですよね。その方の奏法を見て、普段の演奏の環境を考慮しながら最適な楽器を選んであげたいというのが本音です。 なかなかそういうわけにもいきませんが、私に選定を依頼されたい方は、普段の私の演奏や今日お話したことを参考にしていただけたらと思います。 ―ありがとうございました。 (2024年9月24日 株式会社ビュッフェ・クランポン・ジャパンにて)
クラリネットを浅井俊雄、細野孝興、ジャック・ランスロ、ユリス・ドゥレクリューズ、ギイ・ドゥプリュの各氏に師事。ルーアン音楽院及びパリ国立高等音楽院をプルミエ・プリを得て卒業。 東京フィルハーモニー交響楽団を経て、1986年より2010年までNHK交響楽団首席奏者。ソリストまた室内楽奏者としても内外で活躍。元国立音楽大学客員教授、トート音楽院学院長、軽井沢国際音楽祭音楽監督、習志野シンフォニエッタ千葉芸術監督、株式会社 ビュッフェ・クランポン・ジャパン社専属テスター。
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定価625,900円のところ 販売価格532,015円(税込)
遠くまで良く響く伸びやかな明るい音色、 吹奏楽、ジャズをはじめあらゆるジャンルで 愛用されているクランポンの代表機種です。
定価1,474,000円のところ 販売価格1,326,600円(税込)
クラリネットの進化をリードし続けてきたビュッフェ・クランポンから新たな傑作"Tosca"。 芯のあるしっかりとした響きは別次元! 木ならではの柔らかな音色をお好みの方に好評です
定価685,300円のところ 販売価格582,505円(税込)
まろやかで深みのある音色、完璧なバランスが支持されています。 設計者ロベルト・カレの功績を記念してRCと名付けられました。 音程の良さも特長です。人気拡大中!
粉末のグレナディラとカーボンを配合し、木の割れの心配がほとんどありません。吹奏感は変わらず音の密度が増し、やや明るめの音色が特徴です。
定価1,100,000円のところ 販売価格935,000円(税込)
RC系統の上位に位置する楽器で、熟練の職人により昔ながらの技法で作られています。RCよりさらにまろやかで均一な音は、上級者の方にも根強い支持を集めています。
定価1,059,300円のところ 販売価格900,405円(税込)
クラリネット選定ポイントは?横川晴児先生インタビュー
天然の木材で作られているクラリネット。楽器の製造は職人による手作業の部分も多く、同じメーカーの同じモデルであっても、1本1本鳴りや音程、バランスが異なり「個体差」と呼ばれています。
事前に複数本の中から吹き比べを行い、吹奏感や、響き、音色など、より品質の優れた楽器を手にしていただけるよう、プロ奏者による選定品をご用意しております。
弊社で取り扱っておりますクランポン クラリネットの選定は、ビュッフェ・クランポンの日本法人である株式会社ビュッフェ・クランポン・ジャパンにて行っております。江東区・東陽町に本社を構え、ビュッフェ・クランポンをはじめベッソン、アントワンヌ・クルトワ、ユリウス・カイルヴェルトなど多くのブランドを有するメーカーです。
今回は、日本を代表するクラリネット奏者、横川晴児先生の選定インタビューの様子をお届けします。
選定時に重視しているポイントを教えてください
―選定時に重視されているポイントは?
横川先生:たとえば今、ここにあるE13を比べてみましょう。吹き心地は奏者によって異なるけれど、「それぞれのモデルが求めている音色」というものがあります。まずはそこを重視します。
このE13はR13系統の音ですが、こちらの楽器の方がR13系統の特色が良く出ています。倍音が多く、音の輪郭がしっかりしていて、中身がぎゅっとよくまとまっています。
反対にこちらの楽器は、個性があるけれど、悪く言うとごつい。男っぽい力強い音。ただ、オーケストラで吹くのならこっちのほうが音が通りやすいし、音が溶けてしまわない。
このような音色的な特長は、1本1本違います。モデルが変わるとまた別の視点が必要になるし、もちろん奏法も変えていきます。
息の入れ方が、RC系統とR13系統とでは違います。リードまでは変えないけれど、E13にはE13の息の入れ方があって、同じ奏法でRCは吹きません。
さらに重要なのは、上管と下管のバランスです。同じ息を吹き込んで均等に鳴ってくれるかどうか。上管と下管の鳴り方が均一でなければなりません。
―選定時のマウスピースは何を使っていらっしゃいますか?普段のセッティングは?
横川先生:マウスピースはバンドレンの5RV-Lyreです。世界中でもっとも広く使用されている、いわば万人向けの5RVと5RV-Lyreを基準としたリードを作る、という目的のもとに、かつて私はRico社(現D’Addario社)とともにThickBlank(シック・ブランク)を開発しました。現在もこのリードを合わせています。
このリードは、気候の変化が激しい日本での使用を想定して、夏の高温高湿や冬の低温乾燥に耐えられるように設計を全部見直して作りました。
南フランス産のケーンを使用しているので、材質も良いものです。
リガチャーは、ビュッフェ・クランポン純正のものを使っています。遠くまで音が通って、適度に抵抗があります。いろいろ使ってみましたが、ビュッフェ・クランポンのリガチャーが一番いいと思います。
もうひとつ、楽器の中でいちばん影響が大きいのがバレル。マウスピースやリガチャーももちろん重要ですが、バレルの影響は結構大きいですね。ここから下がどんなに鳴っても、その手前のバレルが良くないとね。
先生が選定した楽器はこちら
現在使用されている楽器について
―ご自身の楽器について教えてください。
横川先生:今はLegendeとToscaのグリーンラインを使用しています。
―発売当初から、その仕様でお使いなのですか?
横川先生:横川先生:はい、最初からグリーンラインです。最先端の技術によって開発されたものですから。常に新しいモデルや素材を使いたいという思いもあるし、我々演奏家が使っていかないでどうするんだという責任感もあるし。とはいえ、グラナディラが選択肢にないわけではありません。以前に使っていたグラナディラのFestivalもとても気に入っています。
―素材で比べると、グリーンラインのほうが経年変化が少ない印象があります。
横川先生: そうですね。Toscaのグリーンラインは10年以上吹いたかな。ただ、12〜3年経ったころからさすがにちょっと鳴りすぎかなという感じになって、そのころLegendeが登場して。グリーンラインだと楽器としての寿命が長いのは確かにありますね。
先生にとっての理想の音
―先生の音を聴いていて、R13とRCにはそれぞれ違う美しさがあると感じました。
横川先生:私はね、お化粧した美人がRCで、すっぴんの美人がR13と言ってるんですよ。
RCは「どうです?きれいでしょう?」と言いたげな立派に仕上げられている美しさが特徴です。音が柔らかくしっかりとしてまろやかで、ソロの演奏で実力を発揮する。
R13の良さは音の密度の「濃さ」かもしれません。どちらかというと管弦楽に向いていて、楽器としてしっかり整っていて、シンプルな音ひとつだけで訴える力を持っている。
音がしっかりフォーカスされていて、遠くで聞いても音の密度が変わらない。
そして輪郭がはっきりしている。その輪郭線上に倍音をいっぱい伴っていて、きらびやかなところもあるけれど、全体の音としては、明るくなってしまわず、暗さをもっている。
そういう音が出る楽器を私も好んでいて、自分にとって理想の音の原点はR13かもしれません。
一発の音で魅了できるのがR13で、その上位機種であるFestivalはもう完成品と言っていいくらいです。
一方で、Toscaは技術の粋が結集した、ある意味異次元の楽器ともいえます。きわめて大きな表現力を持っているし、色彩の変化も抜群です。
たったひとつの音で聞く者を魅了する、という話になるといつも思い出す出来事があります。
昔、ウィーンフィルで、アルフレート・プリンツさんのウェーバーの「魔弾の射手」を聞いたときのことです。最初の音を耳にした瞬間に魅了され、鳥肌が立ちました。
輪郭がしっかりとした密度の濃い音とは、会場のお客さまひとりひとりに直接音が届くような力を持っていると思います。
晩年のブラームスに傑作を書かせたリヒャルト・ミュールフェルトというクラリネット奏者がいますよね。彼はどんな音をしていたのだろうと、昔からずっと想像してきました。きっと、そんな音だったのじゃないかな。
楽器の将来性を見越して
横川先生:たとえば、この中ではどれが一番好きでした?
―E13らしいのは、この3本目でしょうか?柔らかくて雑味がなく音がきれいにまとまっています。
横川先生:その通りですね。これは圧倒的に良い楽器です。E13だろうがFestivalだろうが、そんなことに関係なくこれを選びたくなるくらい。即戦力になります。
(別の楽器を手にして)じゃあ、これはどう思います?
―どちらかと言うと、RCに近い感じでしょうか?
横川先生:そうですね。音色は柔らかいけれど、太くてしっかりしています。でも私はこの楽器を選びません。なぜかというと、吹き込んでいったときにリミットがあるからです。いい音なのですが、キャパが少なく、将来性があまりないのです。
例えて言えば、相撲取りが子供を相手にしているような感じでしょうか。子供にけがをさせないように手加減しますよね。それでは良い相撲は取れません。全力で向かったときに「いいよ、いいよ、もっと来てよ」と応えてくれる楽器でなければ、演奏家は充分に表現することができません。
とはいえ、受け入れてくれるばかりでも困ります。良い音でよく鳴ることはいいことですが、でも、それだけではすぐに飽きてしまいます。抵抗感が少なくよく鳴る楽器だと、我々はどこかで抵抗感を得ようとして、リードを重たくします。すると吹く方はどんどん辛くなってしまうのです。
(別の楽器を手にして)この楽器は鳴ってくるのに少し時間がかかると思います。そのかわり、いい味を持っていると言ったらいいかな。なんともいえない淋しさだったり、不安だったり、そんな音を持った楽器です。自分好みにじっくり育てるならこれがいいと思います。
即戦力をとるか、じっくり育てるか。もちろん最良のものを選びますが、最良にも色々なタイプがありますからね。
これはいい、これはだめ、と選ぶ作業をまずやって、残った良い楽器の中からさらに細かいところを確認して選び直します。すべての音が均等で、音程も音色も良く、完璧に感じられた楽器が、実際に曲を演奏してみると「あれ?」となることもあります。
自分の求める表現を可能とする雄弁な楽器を選ぶことは、大変な作業です。
―1台の選定品を選ぶのには、とても丹念な作業と多くの労力を必要とするのですね。
横川先生:横川先生:楽器は育てるもので、ただ鳴ればいいというものではないですからね。簡単じゃないんですよ。簡単そうに選ぶけれど(笑)、ものすごく経験が必要なんです。
今はぱっとしないけれど、5年後や10年後に鳴り始める、そういう楽器もあります。言葉で表現するのはむずかしくて、実際に演奏してみないとわからない部分です。
今日はたくさん楽器があるからいいけれど、5本選んでくださいと言われたのに、2本しか選定できないということもあります。そういうときはそこでやめます。
いいのがないからもっと出して(候補並べて)とお願いすることもあります。
そこはとても誠実にやっています。選定品というのはそれだけ大きな価値があるのです。
本当は、楽器を使用する方がどんな人なのか、どのマウスピースやリードを使っているのかなど、情報が欲しいですね。そうでないと、私が良いと思っても、その楽器が必ずしも好まれるとは限らない。むずかしいところです。
オーケストラで演奏するのか、吹奏楽をやっているのか、普段演奏するのが大きなホールなのか、小さな会場なのか。中学生なのか、大人なのか。どれも重要な情報です。
いちばんいいのは御本人に来ていただくことですよね。その方の奏法を見て、普段の演奏の環境を考慮しながら最適な楽器を選んであげたいというのが本音です。
なかなかそういうわけにもいきませんが、私に選定を依頼されたい方は、普段の私の演奏や今日お話したことを参考にしていただけたらと思います。
―ありがとうございました。
(2024年9月24日 株式会社ビュッフェ・クランポン・ジャパンにて)
選定者 横川 晴児 先生
クラリネットを浅井俊雄、細野孝興、ジャック・ランスロ、ユリス・ドゥレクリューズ、ギイ・ドゥプリュの各氏に師事。ルーアン音楽院及びパリ国立高等音楽院をプルミエ・プリを得て卒業。 東京フィルハーモニー交響楽団を経て、1986年より2010年までNHK交響楽団首席奏者。ソリストまた室内楽奏者としても内外で活躍。元国立音楽大学客員教授、トート音楽院学院長、軽井沢国際音楽祭音楽監督、習志野シンフォニエッタ千葉芸術監督、株式会社 ビュッフェ・クランポン・ジャパン社専属テスター。